結論から書きます。在宅で医療用麻薬を扱うには、麻薬及び向精神薬取締法第3条にもとづく麻薬小売業者の免許が必要です。 患家で不要になった麻薬は、患者や家族から薬局が譲り受けられますが、帳簿記載と識別保管、廃棄後30日以内の保健所への届出が求められます。訪問時の麻薬の管理と指導には、在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算(250点)などの加算があります。
この記事は、麻薬及び向精神薬取締法・同施行規則、東京都保健医療局「麻薬小売業者における麻薬取扱いの留意点について」、調剤報酬点数表の在宅患者訪問薬剤管理指導料(区分15)の通知、薬事日報「【NPhA調査】薬局の麻薬廃棄額8億円‐薬局間譲渡で制度改正要望」(2026年2月20日)にもとづいています。
1. 麻薬を扱うための免許と、できること・できないこと
| 行為 | 根拠条文 | 可否 |
|---|---|---|
| 麻薬卸売業者からの譲受(同一都道府県内に限る) | 法第26条、第32条 | 麻薬小売業者免許があれば可 |
| 麻薬処方箋を所持する患者への譲渡 | 法第24条第11項、第25条 | 処方箋によってのみ可 |
| 患者・家族から返却された調剤済み麻薬の譲受 | 法第24条第1項 | 施用中止・死亡等の理由があれば可 |
| 業務廃止に伴う他の麻薬小売業者等への譲渡・譲受 | 法第36条第2項 | 廃止後50日以内に限り可 |
| 麻薬小売業者間での譲渡・譲受 | 法第24条第12項第1号、施行規則第9条の2 | 事前に許可を得た同一都道府県内のグループに限り可 |
| 納品された麻薬の返品 | ― | 不可 |
麻薬小売業者免許を持たない薬局は、これらの譲受・譲渡を行えません。在宅で麻薬を扱う可能性がある薬局は、免許の取得状況を在宅業務の体制整備とあわせて確認してください。
2. 麻薬処方箋を受け付けるときの確認事項
麻薬処方箋には、次の事項が記載されていなければなりません(法第27条第6項、施行規則第9条の3)。
| 記載事項 | 備考 |
|---|---|
| 患者の氏名・年齢 | 生年月日でも可 |
| 患者の住所 | 記載漏れが多い項目 |
| 麻薬の品名・分量・用法用量 | |
| 麻薬施用者の記名押印又は署名 | 記載漏れが多い項目 |
| 処方箋の使用期間 | |
| 処方箋の発行日 | |
| 麻薬施用者の免許番号 | 記載漏れが多い項目。未記載の場合、発行した医師等が麻薬施用者免許を取得していない可能性がある |
| 麻薬診療施設の名称及び所在地 |
処方箋の記載に疑義がある場合は、交付した麻薬施用者に問い合わせて確認した後でなければ調剤できません。
3. 患家に残った麻薬の譲り受けと廃棄
在宅療養では、施用の中止や患者の死亡によって麻薬が患家に残ることがあります。この場合の扱いは次のとおりです。
- 譲り受け:麻薬小売業者は、麻薬の交付を受けた患者またはその家族等から、施用中止・死亡等の理由により施用の必要がなくなった麻薬を譲り受けることができます(法第24条第1項)。自局が交付したものに限らず、他の麻薬小売業者・麻薬診療施設が交付した麻薬も対象です。免許のない薬局は譲り受けられません
- 帳簿記載と保管:譲り受けた麻薬は帳簿に記載し、誤って使用することがないよう識別表示をして保管します
- 廃棄:管理薬剤師等が、薬局の他の職員の立会いのもと、回収が困難な方法で廃棄します(法第35条第2項)
- 届出:廃棄後30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」を管轄の保健所に提出します
これとは別に、調剤せずに在庫していた麻薬(期限切れ・破損等)を廃棄する場合は、事前に麻薬廃棄届を管轄の保健所に提出し、保健所職員の立会いのもとで廃棄します(法第29条)。患家から譲り受けた調剤済み麻薬の廃棄(事後届出)と、未調剤の在庫麻薬の廃棄(事前届出)は手続きが異なるため、混同しないよう注意してください。
日本保険薬局協会(NPhA)が5,019薬局から回答を得た調査では、麻薬小売業者免許を持つ薬局の麻薬廃棄金額は1店舗あたり平均2万3,057円(年間)で、全国の薬局数に換算すると年間約8億円に上ると公表されています(薬事日報、2026年2月20日)。患家からの譲り受けが増える在宅業務では、廃棄の手続きと記録を徹底することが欠かせません。
4. 訪問時の麻薬の管理指導と加算
| 加算 | 点数 | 算定要件 |
|---|---|---|
| 麻薬管理指導加算 | 100点 | 麻薬の投薬が行われている患者に対し、服用・保管の状況、副作用の有無等を確認し、必要な指導を行った場合(在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していない場合は算定不可) |
| 在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算 | 250点 | 在宅で医療用麻薬持続注射療法を行っている患者に対し、投与・残液・保管の状況を確認し、保管取扱い上の注意等を指導し、鎮痛等の効果や体調の変化を確認して処方医に情報提供した場合 |
この2つは同時に算定できません。 同じ患者について、どちらの加算の要件に当てはまるかを確認してから算定してください。
5. 落とし穴
- 麻薬小売業者免許がないまま、患家から麻薬を譲り受けていた:免許がなければ譲受はできません
- 事前届出と事後届出を混同していた:未調剤の在庫麻薬の廃棄は事前届出、患家から譲り受けた調剤済み麻薬の廃棄は廃棄後30日以内の事後届出です
- 譲り受けた麻薬を他の麻薬と区別せずに保管していた:識別表示をして保管することが求められます
- 麻薬管理指導加算と持続注射療法加算を同時に算定していた:同時算定はできません
- 麻薬処方箋の麻薬施用者免許番号の記載漏れに気づかず調剤していた:記載漏れが多い項目です。疑義があれば交付した麻薬施用者に確認してから調剤します
6. まとめ
- 在宅で医療用麻薬を扱うには、麻薬小売業者免許(法第3条)が必要
- 患家で不要になった麻薬は、患者・家族から譲り受けられる(法第24条第1項)。帳簿記載・識別保管・廃棄後30日以内の保健所への届出が必要
- 未調剤の在庫麻薬の廃棄は、事前に保健所へ届け出て職員立会いのもとで行う
- 麻薬管理指導加算(100点)と在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算(250点)は同時算定不可
- 麻薬の廃棄金額は全国で年間約8億円と推計されており、適切な回収・記録が欠かせない
在宅業務全体の届出と体制整備は「薬局の在宅訪問の始め方」で整理しています。
参考資料
- 東京都保健医療局「麻薬小売業者における麻薬取扱いの留意点について①」(麻薬の譲受・譲渡、麻薬の廃棄): https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/webkousyuukai/yakkyoku_oroshi/11236340c96d7167bd34640e93d151871.pdf
- shirobon.net「調剤報酬点数表 区分15 在宅患者訪問薬剤管理指導料(令和8年)」: https://shirobon.net/medicalfee/latest/chozai/r08_chozai/r08c_sec2/r08c2_Y015.html
- 薬事日報「【NPhA調査】薬局の麻薬廃棄額8億円‐薬局間譲渡で制度改正要望」(2026年2月20日): https://www.yakuji.co.jp/?p=130491