結論から書きます。電子処方箋への対応は、①システム事業者への相談と見積もり、②電子署名の準備、③医薬品マスタの点検、④医療機関等向け総合ポータルサイトでの利用申請と運用開始日の登録、⑤調剤結果の登録と重複投薬等チェックの運用、の順に進めます。令和8年度改定で新設された電子的調剤情報連携体制整備加算(月1回8点)は、電子処方箋の受付だけでなく、紙の処方箋を含めた原則全件の調剤結果の登録と、マイナ保険証利用率30%以上を施設基準にしています。「導入した」だけでは足りず、「毎回登録し、毎回チェックする」運用まで作ることが対応の中身です。
この記事は、厚生労働省の電子処方箋のページ、「薬局向け電子処方箋導入スターターキット(第2.1版)」、「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」、特掲診療料の施設基準通知(保医発0305第8号)、「保険調剤の理解のために(令和8年度)」、医薬総発の通知(令和7年12月17日、令和8年7月23日)にもとづいています。
1. 電子処方箋で薬局の業務の何が変わるか
厚生労働省は、電子処方箋を「電子的に処方箋の運用を行う仕組み」であり、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照や、それを使った重複投薬等チェックができるものと説明しています。
薬局向けスターターキットが示す、導入後の業務の変化は次のとおりです。
| 場面 | 電子処方箋の場合 | 紙の処方箋の場合 |
|---|---|---|
| 受付 | 患者がマイナ保険証で受け付けると、処方箋のデータが自動で取り込まれる | 紙の処方箋を受け取り、処方箋に紐づく引換番号をシステムに入力して処方データを取り込む |
| 調剤・服薬指導 | 直近の情報を含む過去の薬剤情報(患者が同意した場合)と、重複投薬等チェックの結果を確認できる | 同左 |
| 調剤結果の登録 | システムに入力・登録し、電子署名を行う | システムに入力・登録し、処方箋に記名押印または署名を行う |
資格確認証を持参した患者は、処方箋の形式によらず引換番号を入力します。電子処方箋に対応していない医療機関からの紙の処方箋は、従来どおり受け付けます。
普及の状況も確かめておきます。スターターキットは2026年4月5日時点で、運用開始済みの薬局の導入率を90%、運用準備中を含めると92%としています。令和8年7月23日の通知は、令和8年6月時点で薬局への導入と調剤結果の登録割合がいずれも9割を超えたとしています。未導入の薬局は少数派になっており、「近隣の医療機関が電子処方箋を発行したときに受けられない」状態は、患者が他の薬局へ移るきっかけになり得ます。
2. 導入の手順
スターターキットのスケジュール例をもとに、手順を並べます。
手順1 システム事業者に相談し、見積もりを取る
まず、使っているレセコン・電子薬歴のシステム事業者に問い合わせます。スターターキットは「導入は1か月以内に完了するケースが多い」としつつ、早めの準備を求めています。見積もりの比較には、厚生労働省が用意している「見積チェックリスト」を使えます。
確認すること
- 電子処方箋の基本機能(受付、調剤結果の登録、処方・調剤情報の閲覧、重複投薬等チェック)への対応
- リフィル処方箋、口頭同意による重複投薬等チェック結果閲覧、マイナンバーカードによる電子署名、処方箋ID検索、調剤結果ID検索への対応
- 医薬品マスタの設定方法と、誰が設定・確認するか
- 電子薬歴・レセコン・オンライン資格確認の端末の間の連携
- 月額の保守費用
手順2 電子署名の準備をする
電子処方箋の調剤結果には電子署名を行います。スターターキットは、電子署名のための申請先を日本薬剤師会またはMEDIS(一般財団法人医療情報システム開発センター)としています。手順はシステム事業者と相談しながら進めます。薬剤師が複数いる薬局では、誰の分をいつまでに用意するかを一覧にしておくと漏れません。
手順3 医薬品マスタを点検する
厚生労働省は、一部の医療機関・薬局でシステム設定の不備により、薬局側のシステムで医師の処方と異なる医薬品名が表示される事例が報告されたとして、医薬品・特定器材マスタの設定を自施設で確認したうえで利用申請を行うよう求めています。
経緯は次のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 令和7年8月28日 | 電子処方箋管理サービスで、ダミーコードを用いた医薬品・特定器材の登録ができないよう改修 |
| 令和7年9月 | 推進会議の資料で、薬局独自のハウスコードとYJコード・レセプト電算コードの対応の誤りは、サービス側の改修では防げず、個別の点検が引き続き必要と整理 |
| 令和7年12月17日 | 令和8年1月8日17時までに点検報告が済んでいない医療機関・薬局を対象に、同月11日をめどに関連サービスの接続停止措置を講じると通知 |
令和7年12月17日の通知は、点検報告を終えた薬局にも、マスタは定期的に更新されるため、設定の誤りを防ぐ運用を続けるよう求めています。例として、設定できる人を限定する、ダブルチェックを行う、コードが適切に設定されているかを定期的に確認するが挙げられています。これから導入する薬局や、接続停止措置を受けた薬局は、システム事業者と安全に運用できる状態かを確認したうえで、点検報告とともに利用申請を行います。
設定を確かめる方法として、厚生労働省は令和7年9月5日に「医療機関・薬局向け 処方・調剤情報の閲覧テスト 実施手順書」を作成し、接続検証環境(テスト環境)を使った閲覧テストを案内しています。
手順4 利用申請と運用開始日を登録する
医療機関等向け総合ポータルサイトで、電子処方箋の利用申請を行い、運用開始日を入力します。運用を始めると、電子処方箋対応施設として厚生労働省のホームページに掲載されます。導入済み施設のリストと地図は厚生労働省のページから検索でき、患者が対応薬局を探す手段にもなっています。
手順5 補助金を申請する
補助を受ける場合は、運用開始後に同じポータルサイトから申請します(詳しくは第4章)。
3. 導入後の運用で求められること
3-1. 調剤結果の登録と重複投薬等チェック
令和8年7月23日の通知(医薬総発0723第1号)は、電子処方箋システムを導入した薬局に次のことを求めています。
- 薬剤師は、薬機法第1条の5第2項等にもとづき、電子処方箋管理サービスへの調剤結果の登録に速やかに対応する。
- 開設者は、薬機法第9条の4第2項等にもとづき、薬剤師が重複投薬等チェックを行い、患者の過去の薬剤閲覧の同意を取得できる体制を整備する。
- 電子処方箋や引換番号が印字された紙の処方箋を取り込むときは、重複投薬等チェックが自動で実行されます。それ以外の紙の処方箋から入力した場合は任意のタイミングでの実行になるため、原則1回以上の重複投薬等チェックを行う。
紙の処方箋を手入力した場合のチェックが漏れやすい点は、運用の手順書に明記しておくべき箇所です。
3-2. 調剤済み処方箋の保存サービス
電子処方箋管理サービスには、保存が必要な調剤済み電子処方箋(調剤結果データ)を5年間保存できる、希望制で有償のサービスがあります(令和6年7月開始)。紙の処方箋を調剤して登録した調剤結果データも対象です。利用するかどうかは、電子調剤録の運用と合わせて判断します。
4. 費用と補助
4-1. 医療情報化支援基金による補助
厚生労働省の資料「医療情報化支援基金等」によると、電子処方箋システムを初期導入した場合の補助は次のとおりです。
| 区分 | 基本(リフィル等の新機能を同時導入する場合を含む) | 院内処方機能を同時に初期導入する場合 |
|---|---|---|
| 薬局 | 事業額55.3万円の1/2、上限27.7万円 | 事業額60.3万円の1/2、上限30.2万円 |
| 大型チェーン薬局 | 事業額55.3万円の1/4、上限13.8万円 | 事業額60.3万円の1/4、上限15.1万円 |
補助の対象は、既存システムの改修費用、オンライン資格確認端末の設定作業やカードリーダーの導入費用(カードの取得費用は除く)、システムを現地の環境に適用する作業の費用です。
薬局の補助対象の導入期限は令和8年9月までとされています。スターターキットも「補助対象の導入期限は令和8年9月まで」と表紙に書いています。これから導入する薬局は、申請の可否と締切を医療機関等向け総合ポータルサイトで必ず確認してください。
4-2. 税制
スターターキットは、中小チェーン・個人薬局では、中小企業投資促進税制と、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が使える場合があるとしています(大手チェーンは対象外)。各制度には条件があるため、顧問税理士と確認します。
5. 電子的調剤情報連携体制整備加算の要件
令和8年度改定で、医療情報取得加算(1年に1回1点)は削除され、医療DX推進体制整備加算1〜3(10点・8点・6点)は電子的調剤情報連携体制整備加算(月1回8点)に改称・一本化されました。処方箋の受付1回につき加算しますが、同じ患者に同じ月に2回以上調剤しても月1回だけです。特別調剤基本料Bを算定している薬局は算定できません。
5-1. 施設基準
特掲診療料の施設基準通知(第95の2)の施設基準は、次の12項目です。
| 番号 | 施設基準 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| (1) | 電子情報処理組織を使用した調剤報酬請求(電子レセプト請求) | 請求の方法 |
| (2) | 電子資格確認(オンライン資格確認)の体制。ポータルサイトで運用開始日を登録 | ポータルサイトの登録 |
| (3) | オンライン資格確認等システムで取得した診療情報・薬剤情報等を閲覧し、活用できる体制 | 端末の配置と手順 |
| (4) | 電子処方箋を受け付けて調剤する体制。紙の処方箋を含め、原則全件の調剤結果を速やかに登録。重複投薬等チェックで確認できる体制 | 登録の漏れの点検 |
| (5) | 電磁的記録による調剤録・薬剤服用歴の管理体制(紙で受けた処方箋等を紙のまま保管するのは差し支えない) | 電子薬歴 |
| (6) | 電子カルテ情報共有サービスで取得される診療情報等を活用する体制 | 当面の間は満たしているものとみなす |
| (7) | 算定月の3月前のレセプト件数ベースのマイナ保険証利用率が30%以上 | 支払基金からの報告 |
| (8) | (7)は、その前月または前々月の利用率で代えられる | 同上 |
| (9) | 医療DXの体制と情報の活用について、薬局内の見やすい場所に掲示 | 掲示物 |
| (10) | (9)の掲示事項を原則としてウェブサイトに掲載(ホームページ等がない薬局は除く) | ウェブサイト |
| (11) | 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを参照し、薬局のサイバーセキュリティ対策チェックリスト等を活用したセキュリティ対策の体制 | チェックリスト |
| (12) | マイナポータルの医療情報等にもとづき、患者からの健康管理の相談に応じる体制 | 手順と周知 |
届出は様式87の3の6を使います。(7)と(12)は、基準を満たしていればよく、地方厚生局への届出は要りません。
なお、施設基準の名称が変わった加算のうち、令和8年5月31日に医療DX推進体制整備加算を算定していた薬局は、新たな届出が要らないとされています(改定の概要【調剤】)。
5-2. 「電子処方箋を受け付ける体制」の範囲
改定の概要【調剤】が引いている疑義解釈資料(その6、令和8年5月22日)の問4は、電子処方箋の機能が拡張された場合について、現時点では令和5年1月26日から稼働した基本機能(電子処方箋の発行・応需と処方・調剤情報の登録、処方・調剤情報の閲覧、重複投与・併用禁忌のチェック)に対応していればよいと答えています。追加機能まで入れていないことを理由に、加算をあきらめる必要はありません。
5-3. 毎月見るべき数字
施設基準のうち、月ごとに変わるのは(7)のマイナ保険証利用率です。3月前(または前月・前々月)の利用率が30%を下回ると、その月は算定できません。受付でのマイナ保険証の案内は、そのまま加算の算定可否につながります。
6. 対応のチェックリスト
- システム事業者から、電子処方箋対応の見積もりを取った
- 電子署名の準備(HPKIカード等)を薬剤師ごとに進めた
- 医薬品・特定器材マスタの設定を確認し、点検報告を済ませた
- マスタを設定できる人を決め、ダブルチェックと定期確認の手順を作った
- ポータルサイトで利用申請と運用開始日の登録を済ませた
- 紙の処方箋を手入力したときも、重複投薬等チェックを実行する手順にした
- 紙の処方箋を含め、調剤結果を原則全件登録している
- 加算の掲示を薬局内とウェブサイトに出した
- サイバーセキュリティ対策チェックリストで自己点検した
- マイナ保険証利用率を毎月確認している
- 補助の申請期限を確認した
7. よくある落とし穴
- 紙の処方箋の調剤結果を登録していない。施設基準は、紙の処方箋を含めて原則全件の登録を求めています。
- 手入力した処方で重複投薬等チェックを実行していない。自動で実行されるのは、電子処方箋と引換番号付きの紙の処方箋を取り込んだときです。
- マスタの更新を点検しないまま放置する。点検報告を一度済ませても、マスタは定期的に更新されます。
- ウェブサイトへの掲載を忘れる。ホームページを持つ薬局は、院内の掲示と同じ事項を原則として載せる必要があります。
- マイナ保険証利用率を見ていない。利用率は毎月変わり、30%を下回った月は算定できません。
8. まとめ
- 導入は、システム事業者への相談、電子署名の準備、医薬品マスタの点検、利用申請と運用開始日の登録の順に進めます。
- 令和8年1月には、点検報告が済んでいない施設への接続停止措置がとられました。マスタの点検は導入後も続ける業務です。
- 電子的調剤情報連携体制整備加算は月1回8点で、紙の処方箋を含む原則全件の登録、重複投薬等チェックの体制、マイナ保険証利用率30%以上などが施設基準です。
- 薬局の補助対象の導入期限は令和8年9月までとされています。
地域の医薬品供給体制に関する加算の実績の数え方は地域支援・医薬品供給対応体制加算の要件と実績の数え方、調剤基本料の区分は調剤基本料の区分の見分け方で整理しています。
参考資料
- 厚生労働省「電子処方箋」 https://www.mhlw.go.jp/stf/denshishohousen.html
- 厚生労働省「薬局向け電子処方箋導入スターターキット(第2.1版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001590879.pdf
- 厚生労働省「医療情報化支援基金等」 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001208233.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」(令和8年7月1日版) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf
- 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(保医発0305第8号、令和8年3月5日) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001732104.pdf
- 厚生労働省「保険調剤の理解のために(令和8年度)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001713154.pdf
- 厚生労働省「電子処方箋を安全に運用できる仕組み・環境の整備のための措置について」(医薬総発1217第1号、令和7年12月17日) https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001625892.pdf
- 厚生労働省「電子処方箋管理サービスにおける調剤結果登録及び重複投薬等チェックについて」(医薬総発0723第1号、令和8年7月23日) https://www.mhlw.go.jp/content/001741648.pdf
- 厚生労働省「第5回 電子処方箋推進会議 資料」(令和7年9月29日) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001569995.pdf