管理薬剤師(薬機法上の「薬局の管理者」)の業務と義務は、薬機法第7条・第8条と施行規則第11条に定められています。中身は、従業者の監督、構造設備と医薬品の管理、サイバーセキュリティの確保、開設者への書面での意見が柱で、ほかに試験検査の実施と結果の確認、管理に関する帳簿の記載、記録の保存があります。
令和3年8月の改正法の施行(令和元年法律第63号)で、管理者の能力と経験の要件、開設者への書面での意見、開設者が意見を尊重して措置を記録する義務、開設者の法令遵守体制が条文に入りました。管理薬剤師を指定した時点の書類のまま、権限や意見の出し方が決まっていない薬局もあります。
この記事では、条文と厚生労働省のガイドライン・通知をもとに、管理薬剤師の義務、兼務の制限、選び方、開設者が決めておくことを整理します。手順や頻度の例は、特に断りのないものは法令の定めではなく、見直しのための例です。
1. 管理薬剤師を置く決まり
薬機法第7条は、薬局を実地に管理する者を次のように定めています。
| 開設者 | 管理する者 | 根拠 |
|---|---|---|
| 薬剤師である開設者 | 開設者が自ら実地に管理する。ただし、その薬局で薬事の実務に従事する他の薬剤師から管理者を指定して管理させることもできる | 第7条第1項 |
| 薬剤師でない開設者(法人を含む) | その薬局で薬事の実務に従事する薬剤師から管理者を指定して、実地に管理させなければならない | 第7条第2項 |
さらに、次の2つが定められています。
| 決まり | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 能力と経験 | 管理者は、第8条の義務と省令で定める業務を遂行し、省令で定める事項を遵守するために必要な能力及び経験を有する者でなければならない | 第7条第3項 |
| 兼務の制限 | 管理者(自ら管理する開設者を含む)は、その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事してはならない。所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区は市長・区長)の許可を受けたときを除く | 第7条第4項 |
開局の手続きの中での管理者の指定と届出は、「保険薬局の開局の流れ」で整理しています。
2. 管理薬剤師の義務と業務
2-1. 法律と施行規則が定める義務
| 義務・業務 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 従業者の監督 | 保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、薬局に勤務する薬剤師その他の従業者を監督する | 法第8条第1項、施行規則第11条第2項第1号 |
| 構造設備と物品の管理 | 薬局の構造設備と医薬品その他の物品を管理する | 同上 |
| サイバーセキュリティの確保 | 薬局の業務に係るサイバーセキュリティの確保のために必要な措置を講じる | 施行規則第11条第2項第1号 |
| 業務全般の注意 | その他薬局の業務につき、必要な注意をする | 法第8条第1項、施行規則第11条第2項第1号 |
| 開設者への意見 | 保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、薬局の業務につき、開設者に必要な意見を書面で述べる | 法第8条第2項 |
| 意見の写しの保存 | 開設者に述べた意見を記載した書面の写しを3年間保存する | 施行規則第11条第2項第2号 |
| 権限に係る業務 | 開設者が明らかにした管理者の権限(法第9条の2第1項第1号)に係る業務 | 施行規則第11条第1項第1号 |
| 試験検査 | 管理者が必要と認める医薬品の試験検査を行う。薬局の設備で難しい場合は、登録試験検査機関を利用した試験検査の結果を確認する | 施行規則第11条第1項第2号、第12条 |
| 帳簿の記載 | 試験検査、不良品の処理その他薬局の管理に関する事項を、管理に関する帳簿に記載する。帳簿は開設者が最終の記載の日から3年間保存する | 施行規則第11条第1項第3号、第13条 |
| 記録の保存 | 施行規則第240条第2項・第3項の記録の保存 | 施行規則第11条第1項第4号 |
サイバーセキュリティの確保は、施行規則の改正で管理者の遵守事項に加わった項目です。電子薬歴、オンライン資格確認、電子処方箋など、薬局の業務がネットワークにつながる場面が増えているため、担当の決め方を含めて一度確かめておきます。
2-2. 開設者への意見は書面で
厚生労働省の「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」(令和3年6月25日付け薬生発0625第13号)は、管理者を「薬局等の業務に関する法令遵守上の問題点を最も実効的に知り得る者」とし、次のことを求めています。
- 自ら、または従業者からの報告で認識した問題点を、開設者に適時に報告し、改善のための措置を含む意見を忌憚なく述べる
- 意見の内容が開設者に明確に示され、意見を述べたことが記録されるよう、書面で行う
- 緊急の事項を、まず口頭で報告することは否定されない
口頭で伝えて終わっている意見は、法の上では書面の意見になっていません。薬剤師の人数が足りない、在庫の管理が回っていない、といった問題を伝えるときは、日付・問題点・求める措置を書いた書面にし、写しを3年間残します。
3. 開設者の側の義務
管理薬剤師の義務と対になるのが、開設者の義務です。
| 開設者の義務 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 意見の尊重と措置 | 管理者の意見を尊重し、法令遵守のために措置が必要なときは措置を講じる | 法第9条第2項 |
| 措置の記録 | 講じた措置の内容を記録し、適切に保存する。措置を講じない場合は、その旨と理由を記録する | 法第9条第2項 |
| 管理者の権限を明らかにする | 従業者への業務の指示と監督に関する権限、その他薬局の管理に関する権限 | 法第9条の2第1項第1号、施行規則第15条の11の2第1号 |
| 法令遵守の体制 | 規程の作成、責任役員と従業者の教育訓練と評価、業務の記録の作成・管理・保存、業務を監督するための情報収集と措置、人員の確保と配置など | 法第9条の2第1項第2号、施行規則第15条の11の2第2号 |
| 法令遵守の指針など | 従業者への法令遵守の指針、責任役員の権限と分掌、2つ以上の薬局を持つ場合の全薬局の確認 | 法第9条の2第1項第3号、施行規則第15条の11の2第3号 |
| 措置の記録と保存 | 上の措置の内容を記録し、適切に保存する | 法第9条の2第2項 |
ガイドラインは、開設者が管理者の意見を尊重するための前提として、意見を受け付けて措置の要否を検討する責任役員や会議体、措置を講じる責任役員を明示するなど、意見を述べる方法と措置を講じる体制を明確にするよう求めています。
ガイドラインの別紙には、法令違反の事例として、必要な薬剤師数の不足を役員が認識しながら営業を続けていた事例や、適切な業務運営体制がなかったために管理者が他の薬局で業務を行っていた事例が挙げられています。
4. 兼務の制限と許可
第7条第4項により、管理薬剤師は原則として、その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事できません。例外は、所在地の都道府県知事等の許可(兼務許可)を受けた場合です。
厚生労働省の通知「薬局の管理者の兼務許可の考え方について」(平成31年3月20日付け薬生総発0320第3号)は、次の点を示しています。通知の題名の「第7条第3項」は当時の条番号で、令和3年8月の改正の施行後は第7条第4項に当たります。
| 通知の中身 | 要点 |
|---|---|
| 位置づけ | 管理者はその薬局を実地に管理する者であることから、兼務許可は例外的な取扱いとすべき |
| 従来からの例 | 非常勤の学校薬剤師を兼ねる場合など、管理者の業務の遂行に支障を生ずることがないと認められるとき(昭和36年の通知) |
| 認められ得る例 | 薬局の営業時間外の夜間休日に、地域の輪番制の調剤業務に従事する場合 |
| 認められ得る例 | へき地で管理者の確保が難しいと認められる場合に、その地域の薬局の営業時間外に他の薬局に勤務する場合 |
| 判断 | 都道府県知事等が地域の実情と個別の事案を勘案し、管理者の業務の遂行に支障がないと判断する場合 |
兼務許可の申請の様式や必要書類は、都道府県等で定められています。系列の薬局の応援に管理薬剤師を回す、といった運用は兼務の制限に触れるおそれがあるため、シフトを組む前に確かめます。
5. 管理薬剤師の選び方
第7条第3項の「必要な能力及び経験」について、法令遵守ガイドラインは次のように示しています。
- 開設者は、管理者にどのような権限を付与するかを検討して範囲を明確にし、その権限に係る業務を行える知識、経験、理解力、判断力があるかを客観的に判断する
- 原則として、薬局の実務経験が少なくとも5年あり、中立的で公共性のある団体(公益社団法人薬剤師認定制度認証機構など)が認証した制度、またはそれと同等の制度で認定された薬剤師であることが重要
- 責任役員に忌憚なく意見を述べられる職務上の位置づけにあるかも十分に考慮する
調剤報酬でも、管理薬剤師の経験や在籍が要件になっている加算があります。どの加算にどの要件があるかは「薬剤師の採用」の表で整理しています。管理薬剤師を替えると加算の要件を満たさなくなることがあるため、交代の前に確かめます。
6. 開設者と管理薬剤師で決めておくこと
条文とガイドラインから、書面にしておくとよい事項の例です。
| 決めておくこと | 中身の例 |
|---|---|
| 管理者の権限 | 従業者への業務の指示と監督、発注・在庫・廃棄の判断、シフトへの意見など、どこまでを管理者が決めるか |
| 意見の出し方 | 書面の様式、宛先(責任役員・会議体)、緊急時の口頭報告と後からの書面化 |
| 意見への回答 | 措置の要否を検討する人と期限、措置の内容または講じない理由の記録 |
| 記録の置き場所 | 意見の写し(3年)、措置の記録、管理に関する帳簿(最終記載から3年)の保管場所 |
| 不在時の連絡 | 管理薬剤師が休みのときの連絡の取り方と、代わりに判断する人 |
| サイバーセキュリティ | 担当、端末とアカウントの管理、事故が起きたときの連絡の順番 |
| 兼務 | 学校薬剤師などを兼ねる場合の許可の有無と、許可の範囲 |
複数の薬局を持つ開設者は、施行規則第15条の11の2第3号ハにより、全ての薬局で法令遵守の体制が確保されていることを確かめる措置が要ります。薬局ごとの管理薬剤師の意見が、開設者まで届いて記録されているかを確かめる仕組みを作ります。
7. つまずきやすい点
| つまずき | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 意見を口頭で伝えて終わっている | 法第8条第2項の書面の意見になっておらず、写しも残らない | 様式を決め、日付・問題点・求める措置を書く |
| 開設者が意見への対応を記録していない | 法第9条第2項の記録の義務を果たせない | 措置の内容、または講じない理由を記録する |
| 管理薬剤師の権限が決まっていない | 指示と監督が及ばず、問題が起きても誰の判断か分からない | 権限を書面で明らかにする |
| 管理薬剤師を系列の薬局の応援に回している | 兼務の制限に触れるおそれ | 兼務許可の要否を確かめてからシフトを組む |
| 管理薬剤師を替えた後に加算の要件を見ていない | 経験・在籍の要件を満たさなくなることがある | 交代の前に加算の要件を確かめる |
| サイバーセキュリティの担当が決まっていない | 施行規則第11条の遵守事項を果たせない | 担当と、事故時の連絡の順番を決める |
まとめ
- 管理薬剤師の義務は、薬機法第8条と施行規則第11条にあります。従業者の監督、構造設備と医薬品の管理、サイバーセキュリティの確保、業務全般の注意、開設者への書面での意見(写しは3年保存)が柱です。
- 試験検査とその結果の確認、管理に関する帳簿の記載(帳簿は最終記載から3年保存)も管理薬剤師の業務です。
- 開設者は、管理薬剤師の意見を尊重し、措置を講じるか、講じない理由を記録します。管理者の権限と、意見を受ける体制を明らかにしておきます。
- 管理薬剤師は、知事等の許可がなければ、その薬局以外で薬事の実務に従事できません。兼務許可は例外的な扱いです。
- 管理薬剤師には、必要な能力と経験が求められます。ガイドラインは、薬局の実務経験5年以上と認定薬剤師であることを原則として重要としています。
参考資料
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第7条・第8条・第9条・第9条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(昭和36年厚生省令第1号)第11条・第12条・第13条・第15条の11の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/336M50000100001
- 厚生労働省医薬・生活衛生局長「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」について(令和3年6月25日付け薬生発0625第13号): https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000812083.pdf
- 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第7条第3項に規定する薬局の管理者の兼務許可の考え方について」(平成31年3月20日付け薬生総発0320第3号): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4184&dataType=1&pageNo=1