結論から書きます。保険薬局の開局は、①薬機法の「薬局開設許可」(都道府県知事など)、②健康保険法の「保険薬局の指定」(地方厚生局)、③調剤基本料などの「施設基準の届出」(地方厚生局)の3段階で、この順番を入れ替えることはできません。保険薬局の指定は原則として毎月1日付けで、申請の締切は厚生局の事務所ごとに違います。開局日から逆算して、物件の構造設備、薬剤師の員数、指定申請の締切、オンライン資格確認の準備を並行して進めるのが開局の段取りです。
この記事は、e-Gov法令検索の薬機法・薬局等構造設備規則・薬局の業務を行う体制を定める省令・健康保険法・保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則、関東信越厚生局と近畿厚生局の指定申請の案内、厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」にもとづいています。
1. 開局の全体の流れ
| 段階 | 手続き | 根拠 | 申請先 |
|---|---|---|---|
| 1 | 薬局開設許可 | 薬機法第4条 | 所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区は市長・区長)。窓口は保健所などの薬務担当 |
| 2 | 保険薬剤師の登録 | 健康保険法第64条・第71条 | 地方厚生(支)局 |
| 3 | 保険薬局の指定 | 健康保険法第65条 | 地方厚生(支)局の都府県事務所など |
| 4 | 施設基準の届出 | 特掲診療料の施設基準等 | 地方厚生(支)局の都府県事務所など |
| 5 | 必要に応じた指定・免許 | 生活保護法第49条(医療扶助の指定)、麻薬及び向精神薬取締法第3条(麻薬小売業者の免許)など | 都道府県知事など |
保険薬局の指定の申請には、薬局の開設許可証の写しを添付します(関東信越厚生局の添付書類の案内)。開設許可が下りないと、指定の申請に進めません。
2. 段階1 薬局開設許可を受ける
2-1. 許可の基準
薬機法第5条は、次のいずれかに当たる場合に許可を与えないことができると定めています。
- 構造設備が厚生労働省令(薬局等構造設備規則)の基準に適合しない
- 調剤などの業務を行う体制が厚生労働省令(体制省令)の基準に適合しない
- 申請者(法人は薬事に関する業務に責任を有する役員を含む)が、許可の取消しから3年を経過していない、薬事に関する法令の違反から2年を経過していないなどの欠格事由に当たる
2-2. 構造設備の主な基準
薬局等構造設備規則第1条の主な基準です。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 面積 | おおむね19.8平方メートル以上で、薬局の業務を適切に行うことができるもの |
| 調剤室 | 6.6平方メートル以上。天井と床は板張り・コンクリートなど。患者などが進入できない措置 |
| 区別 | 他の薬局・店舗販売業の店舗、常時居住する場所、不潔な場所から明確に区別 |
| 明るさ | 医薬品を陳列・交付する場所は60ルクス以上、調剤台の上は120ルクス以上 |
| 貯蔵 | 冷暗貯蔵のための設備、鍵のかかる貯蔵設備。貯蔵設備を設ける区域は他の区域と明確に区別 |
| 外観 | 容易に出入りでき、薬局であることが外観から明らか |
| 情報提供の設備 | 調剤室に近接する場所に、情報提供と指導を行う設備 |
| 薬剤師不在時間がある場合 | 調剤室を閉鎖できる構造 |
一般用医薬品や要指導医薬品を扱う場合は、陳列区画や閉鎖できる構造など、追加の基準があります。物件の契約前に、平面図を持って保健所の薬務担当に事前相談するのが、手戻りを避ける確実な方法です。
2-3. 薬剤師の員数と管理者
体制省令第1条は、調剤に従事する薬剤師の員数を、1日平均取扱処方箋数を40で割った数(端数は切り上げ)以上とし、開店時間内は常時、調剤に従事する薬剤師が勤務していることを求めています。前年の業務期間がない新規開局では、処方箋数は推定で出します。計算方法は薬剤師の採用|必要人数の出し方で整理しています。
薬機法第7条により、開設者が薬剤師なら自ら実地に管理するか、他の薬剤師から管理者を指定します。開設者が薬剤師でない場合は、薬剤師の中から管理者を指定しなければなりません。管理者は、原則としてその薬局以外の場所で業として薬事に関する実務に従事できません(第7条第4項。所在地の都道府県知事の許可を受けた場合を除く)。
2-4. 申請書と添付書類
薬機法第4条第2項・第3項は、申請書の記載事項と添付書類を定めています。
- 氏名または名称・住所(法人は代表者の氏名)
- 薬局の名称と所在地
- 構造設備の概要
- 調剤などの業務を行う体制の概要
- 法人は、薬事に関する業務に責任を有する役員の氏名
- 欠格事由に当たらない旨
- 平面図
- 管理者を指定する場合は、管理者の氏名と住所
- 管理者以外の薬剤師・登録販売者を置く場合は、その氏名と住所
許可の申請から交付までの日数や手数料は自治体ごとに違うため、所在地の保健所で確かめます。
3. 段階2 保険薬剤師の登録
健康保険法第64条により、保険薬局で健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた保険薬剤師でなければなりません。登録は薬剤師本人の申請によります(第71条)。保険薬局の指定申請書には、保険薬剤師(管理薬剤師を除く)の氏名と登録の記号・番号を書いた書類を添付します。採用予定の薬剤師が未登録なら、指定申請より前に登録を済ませておきます。
4. 段階3 保険薬局の指定を受ける
4-1. 指定の申請と指定日
健康保険法第65条により、保険薬局の指定は薬局の開設者の申請によって行われます。
関東信越厚生局の案内では、申請は薬局が所在する都県を管轄する事務所(埼玉県は指導監査課)に行い、地方社会保険医療協議会への諮問を経て指定されると「指定通知書」が送られます。指定は、申請者の希望がない限り毎月1日付けです。地方社会保険医療協議会の部会が月1回開かれることを踏まえた扱いで、1日以外を希望する場合は、部会開催の翌月のいずれの日でも指定が可能とされています。近畿厚生局は、原則として指定申請をした翌月1日を指定日としています。
毎月の申請の締切日は厚生局の事務所ごとに決まっています。開局日を決めたら、まず所在地の事務所の締切日を確かめ、逆算して開設許可の申請時期を決めます。
指定日を過去にさかのぼる遡及指定は例外的な扱いで、関東信越厚生局は、令和8年9月1日以降は「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日保医発0605第2号)にもとづいて扱うとしています。
4-2. 保険薬局の添付書類
関東信越厚生局の案内が示す、保険薬局の主な添付書類です。
- 薬局の開設許可証の写し
- 保険薬剤師(管理薬剤師を除く)の氏名、登録の記号・番号を記載した書類
- それ以外の薬剤師の数を記載した書類
- 開局日と開局時間(通常週の状況がわかるもの)
- 土地建物の登記簿謄本(登記事項証明書)または賃貸借契約書の写し
- 周辺図(近隣の医療機関の位置がわかるもの)
- 平面図(敷地内の全ての建物、敷地内の医療機関の有無、薬局の出入口が公道等に面しているか)
- 雑居ビル等の場合は、同一建物内のテナント名がわかる書類
- 保険薬局の新規指定・指定更新に係る確認書類
- オンライン資格確認の受付番号情報提供依頼書兼回答書の写し(遡及指定を除く)
- 社会保険・労働保険への加入状況の確認票
近畿厚生局は、社会保険・労働保険への加入は指定の要件ではないと明記したうえで、新規指定申請時に加入状況を確認するとしています。
4-3. 一体的な構造・経営の禁止
保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3は、保険薬局が保険医療機関と一体的な構造とし、または一体的な経営を行うことを禁じ、特定の保険薬局で調剤を受けるよう患者に指示することの対償として、医療機関や保険医に金品などを提供することも禁じています。近畿厚生局は、これらに当たらないことを確認したうえで指定を行うとしています。周辺図と平面図で医療機関との位置関係を求められるのはこのためです。
4-4. 指定しないことができる場合
健康保険法第65条第3項は、指定の取消しから5年を経過していない、開設者・管理者が罰金刑の執行を終えていない、社会保険料の滞納処分を受けて3か月以上引き続き滞納している、などの場合に指定しないことができると定めています。
4-5. オンライン資格確認の準備
保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第3条は、患者が電子資格確認(オンライン資格確認)による確認を求めた場合に対応できるよう、保険薬局にあらかじめ体制を整備することを求めています。近畿厚生局の案内によると、オンライン資格確認の利用には医療機関等コードが必要で、開局月の月初から利用するには、医療機関等コードの代わりに使える受付番号が必要です。受付番号の依頼は指定申請書と提出時期が異なるため、別に予定を組みます。
電子処方箋の導入は、電子処方箋に薬局が対応する手順で整理しています。
5. 段階4 施設基準を届け出る
指定を受けたら、調剤基本料などの施設基準を地方厚生局に届け出ます。届出をしないと、調剤基本料の届出がない薬局として特別調剤基本料B(3点)の扱いになり、多くの点数を算定できません。
改定の概要【調剤】によると、新規の場合の実績要件は、調剤基本料(処方箋受付回数・集中率)について指定当初は要件がなく、その後3か月の実績で判断します。地域支援・医薬品供給対応体制加算や在宅薬学総合体制加算の実績要件も、新規の場合の扱いが別に定められています。
令和8年6月1日以降に新規開設する薬局には、門前薬局等立地依存減算(▲15点)の基準が適用されます。都市部で500m以内に他の保険薬局があり処方箋集中率が85%を超えるなどの条件に当たるかは、物件を決める前に確認すべき事項です。区分の見分け方は調剤基本料の区分の見分け方で整理しています。
6. 開局日から逆算する手順
- 開局日を仮に決める。保険薬局の指定は原則として毎月1日です。
- 厚生局の事務所の締切日を確かめる。開局月の指定に間に合う申請の締切日を確認します。
- 物件を探し、保健所に事前相談する。平面図で構造設備の基準と、医療機関との位置関係(一体的な構造にならないか)を確かめます。立地依存減算の基準にも当てはめます。
- 薬剤師を確保する。推定処方箋数から員数を出し、管理者を決め、保険薬剤師の登録を確かめます。
- 開設許可を申請する。許可の交付日を指定申請の締切に間に合わせます。
- オンライン資格確認の受付番号を依頼する。開局月の月初から使えるようにします。
- 保険薬局の指定を申請する。開設許可証の写しなどを添付します。
- 施設基準を届け出る。調剤基本料の届出を漏らさないようにします。
- 必要に応じて、生活保護の指定医療機関、麻薬小売業者の免許などを申請する。
7. よくある落とし穴
- 物件の契約後に構造設備が合わないとわかる。面積・調剤室・区画は、契約前に保健所で確かめます。
- 指定申請の締切を1日過ぎる。指定は原則毎月1日のため、開局が1か月ずれます。
- 医療機関との位置関係を軽く見る。一体的な構造・経営は禁止されており、周辺図と平面図で確認されます。
- 施設基準の届出を忘れる。特別調剤基本料Bの扱いになり、多くの点数を算定できません。
- 立地依存減算の基準を確かめずに出店する。令和8年6月以降の新規開設が対象です。
- 有効期間を忘れる。開設許可は6年ごとの更新が必要で、保険薬局の指定も6年で効力を失います。
8. まとめ
- 開局は、薬局開設許可→保険薬局の指定→施設基準の届出の順番です。
- 開設許可は、構造設備(面積おおむね19.8㎡以上・調剤室6.6㎡以上など)と体制(薬剤師の員数など)の基準を満たす必要があります。
- 保険薬局の指定は原則として毎月1日付けで、締切は厚生局の事務所ごとに違います。
- 保険医療機関と一体的な構造・経営は禁止されています。令和8年6月以降の新規開設には、門前薬局等立地依存減算の基準も適用されます。
- 開設許可・保険薬局の指定は、いずれも6年の有効期間があります。
開局後の収支の見方は保険薬局の収支の見方で整理しています。
参考資料
- e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(第4条、第5条、第7条) https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
- e-Gov法令検索「薬局等構造設備規則」(第1条) https://laws.e-gov.go.jp/law/336M50000100002
- e-Gov法令検索「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」(第1条) https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000100003
- e-Gov法令検索「健康保険法」(第63条〜第65条、第68条、第71条) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- e-Gov法令検索「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」(第2条の3、第3条) https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100016
- e-Gov法令検索「生活保護法」(第49条) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000144
- e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法」(第3条) https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000014
- 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ及び添付書類等」 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/shitei_shinsei.html
- 近畿厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」(令和8年7月1日版) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf